子供たちの心に世界地図を描く。
ナタデココ|子供たちの文化交流教室

Goal

文化交流教育の目標はなんでしょうか。

 文化交流教育の目標は、異文化との交流を通じて、自分と異なる文化・価値観に対して興味を持ち、実際に行動し、相手を尊重する力を身につけることです。グローバルな人の往来が日常となった現代社会。子供たちには、個々の違いを乗り越え、互いに理解し、尊重し合うための方法を身につけてほしいと願っています。

Capabality

文化交流教育で身に着けるべき力を文化交流力と定義しています。

 文化交流力は、多種多様な能力が複合的に組み合わさって構成されています。これらは以下のとおり分類されます。

  • Skill(技能):英語力、コミュニケーション力など
  • Knowledge(知識):異文化に関する知識・理解
  • Attitude(姿勢):積極性、強調性など

 英語力やコミュニケーション力、異文化理解力などは、文化交流力を構成する要素であると捉えています。

英語教育との比較

 英語教育と文化交流教育は対立するものではなく、共存し補完し合う関係にあると考えています。

  文化交流教育において、英語力はあくまで手段の一つと定義づけられており、英語力向上は目標ではありません。しかし、決して矛盾するものではありません。文化交流教育を通じて、異文化への興味を抱き、文化交流を続ける中で、英語を学ぶことへの意欲が高まることは自然です。私たちは、文化交流教育と英語教育のどちらかを選ぶのではなく、うまく組み合わせることが重要であると考えています。

 また、比較的歴史が浅い学問ですが、その分、大いに注目されている分野でもあります。特に、2018年には国際学力調査(PISA)にグローバルコンピテンスが導入されるなど、英語以外の国際的な能力を測る試みが国際的に進められています。

Steps

文化交流教育は、大きく次のステップによって進められます。

STEP1 原体験

 文化交流教育の全ての礎は「原体験」にあります。STEP1の最大の目標は、異文化に触れることは楽しいのだと本能的に心で覚えることです。

 人は誰でも自分と違う文化に触れるとき、多かれ少なかれドキドキする感情を持つでしょう。この「ドキドキ」はポジティブな側面とネガティブな側面を持ち合わせています。新しいことにたくさん触れてみたいという好奇心と、自分の殻にこもっていたいという抵抗感。この二つが心の中でせめぎ合います。抵抗感に打ち勝つだけの好奇心を植え付けることが重要です。

 そのため、文化交流教育における原体験は、あくまでポジティブな感情を持ち帰ることを最優先としています。新しい知識を身につけたり、無理して英語を使ってみたりする必要はありません。これらは、適切な原体験があれば自然と身につくものです。例えば、外国人と英語で話すという行為に心理的な負担を感じるのなら、Goolge翻訳を使えばよいのです。逆に、英語で話すこと自体が良い原体験となるのであれば、それももちろん歓迎です。

 できる限りの心理的な負担を減らし、異文化と楽しい時間を過ごすことを最優先にします。異文化に触れるということは、非日常であり、実は大きなチャレンジだったりします。特に子供たちにとっては。

 ちなみに、ナタデココの文化交流教室では、異文化を「外国の文化」と整理した上で、原体験を「子供たちの心に世界地図を描く」と表現しています。子供たちには、世界中の文化に触れ、好奇心や行動力の礎となる原体験を持ち帰ってほしいと願っています。

原体験

STEP2 好奇心と行動力

 原体験によって培われるべき力は好奇心と行動力です。例えば、海外のお菓子を食べてみたい、世界遺産を見に行ってみたい、など異文化に対する好奇心がなによりも不可欠だと考えています。

そして、もう一つの重要な要素が行動力です。興味をもつだけではなく、実際に飛び込む行動力。これは好奇心と表裏一体でどちらも欠かすことができません。例えば、レストランに入って、聞いたこともない料理を見つけたときにちょっと試してみようと思える、そんなイメージです。

 好奇心と行動力は循環関係にあります。興味を持つことで行動に移し、行動に移すことで新たな発見から更なる興味を引き出します。好奇心がなければ、行動が生まれることがありませんが、行動がなければ、好奇心の幅には限界が来ます。このようなうまく回る循環関係を作ることが重要です。

STEP3 文化交流プロセス

 原体験で得た好奇心と行動力という武器を手に入れることができれば、一定の強度での文化交流の機会が定期的に発生します。

 この各文化交流の機会をより詳細に分析するため、異文化コミュニケーション学の権威ミルトン・ベネット教授が提唱する異文化感受性発達モデルDMISを取り入れています。

 このモデルでは、「これはどんな文化にも優劣はなく、異文化の感受性が発達すれば、文化の違いを脅威とみなしたり、(単純で誤りの多い)ステレオタイプに陥ったりすることを減らせる」という考えの下、異文化感受性(専門的には「差異の主観的経験」)を測定するモデルです。

このモデルは、大きく以下の6段階に分類されています。

1. Denial (否定)異文化に対する拒絶
2. Defense (防御)自分の文化の方が上位であるという意識
3. Minimization (最小化)どの国の人も同じ人間だと分かる
4. Acceptance (受容)異文化が存在することを理解する
5. Adaptation (適応)異文化でふさわしい行動を取るようになる
6. Integration (統合)状況に応じて価値観を行ったり来たりできる

ここでは各段階の詳細に立ち入ることは避けようと思いますが、重要なことは最終段階の「統合」です。この状況では、コンテクスト・シフティングすることが期待される段階といえます。このコンテクスト・シフティングについては、STEP4で見てみましょう。

STEP4 コンテクスト・シフティング

 DMISの最終段階が統合であり、コンテクスト・シフティングが期待されるとしました。

 そもそもコンテクストとはなんでしょうか。人は言葉を理解するときに、その言葉のみならず、その文脈によって認識しています。例えば、「海」という単語について、「海によって閉ざされた国」というように用いれば分断する存在として捉えられるでしょうし、海によってグローバルな物流が支えられているという面に目を向ければ、むしろ世界を繋げる存在として捉えることもできます。

 すなわち、言葉であれ文化であれ、単面的な存在ではなく、文脈によって大きく形を変えうるということです。これらのコンテクストを場面に合わせてシフトすることができる力をコンテクスト・シフティングと呼んでいます。人が現象を理解する際に、最初に用いたコンテクストから別のコンテクストへ意図的に視点を移動し、認知的フレームを変更することともいえます。

 冒頭申し上げたように、文化交流教育のゴールは、「自分と異なる文化・価値観に対して興味を持ち、実際に行動し、相手を尊重する力」を身につけることです。そして、それは平たく言うと、「相手の立場に立つ力」と言えると考えています。そのためにはコンテクスト・シフティングするということに類似すると考えています。

 これらの力を身につけた子供たちが未来の日本社会を担っていくことで、異文化との出会いを楽しみながら、世界をよくするために協働する社会が実現することを強く願っています。

教育のその先に

参考文献

山本志都・石黒武人・Milton Bennett・岡部大祐「異文化コミュニケーション・トレーニング」, 三修社, 2022年11月
Bennett, M. J. (1986a). Towards ethnorelativism: A developmental model of intercultural sensitivity. In R. M Paige (ed.), Cross-cultural orientation: New conceptualizations and applications (pp.27・70).Lanham, MD: University Press.
Bennett, M. J. (1986b). A developmental approach to training for intercultural sensitivity. International Journal of Intercultural Relations, 10, 170イ98.

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